北朝鮮のミサイル問題のバカ騒ぎ 後編 | 田母神俊雄

北朝鮮問題の裏にあるものと我々が如何に行動するべきか
田母神セブン 2023.01.06
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田母神セブン通信は、元航空幕僚長の田母神俊雄が、軍事・国際情勢・日本の行方などについて解析するためのチームを新たに結成し、田母神俊雄とそのブレーンによる広く深い、ニュース・分析をお伝えしてまいります。

 令和5年あけましておめでとうございます。今年は元旦から北朝鮮による短距離弾道弾の発射が行われ、浜田防衛大臣が深夜「国連の安保理決議に違反しており強く非難する」と北京の大使館ルートを通じて抗議したという。

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北朝鮮のミサイル危機は日本自立のチャンス

 もちろん私は戦いに備えなくてよいと言っているわけではない。戦いに備えることは抑止力を高めるために必要なことだ。国家としていざというときに戦える態勢が出来ていない我が国は、今回の北朝鮮危機を利用して、防衛力を増強したり、憲法を改正したり、あるいは核武装について議論するとか、国家の戦える態勢を整備するチャンスである。これまで日米安保条約の下、国の守りをアメリカに依存してきたが、現在起きている状況はアメリカから自立するチャンスでもある。自衛隊を国軍と位置付け、国家として自分の国は自分で守るという態勢を取らなければならない。第2次大戦後、アメリカの占領下で我が国は国軍を奪われてしまった。国軍を持たない独立国家は今も昔も存在しないのである。アメリカに守ってもらっている日本は半独立国家のようなものだ。そしてアメリカの意思で多くのことが決められていく。

北朝鮮が日米に向けてミサイルを撃つことはない

 さて金正恩がおかしな男、怖い男というのはマスコミなどによって作り上げられた虚像であると思う。一国の指導者が気違いであるなどということはあり得ないことだ。万が一、金正恩がおかしなところがあるにしても彼の周りにはスタッフがついており、北朝鮮は国家としては利、不利を慎重に計算して合理的な行動をすると思う。テレビでは北朝鮮のスポークスマンがアメリカを挑発するようなことを頻繁に言っているが、あれだって計算された行動なのだ。

 もし北朝鮮が我が国にミサイルを撃ち込むことがあれば、我が国の世論は激昂し、日米安保も発動され、北朝鮮は国家消滅の危機を迎えることになろう。アメリカはアメリカの利益のために、元来北朝鮮を問題児のまま存続させたいと考えているが、北朝鮮が先に攻撃を仕掛け、我が国がこれに応戦すれば日米安保に基づきアメリカも戦わざるを得なくなる。日米安保条約は日本の戦争へのアメリカの自動参戦を保証するものではないが、北朝鮮の現在の軍事力ではアメリカに対し大被害を与えることは無理なので、アメリカは国際信義を守るため参戦する可能性が高いと私はみている。これに対し日中戦争が起きた場合はアメリカの参戦する可能性はかなり低くなる。それは北朝鮮と違って中国の軍事力はアメリカにとっても手ごわい存在であるからだ。

話を元に戻そう。合理的な判断に従えば北朝鮮が先に攻撃を仕掛けることはないだろう。国家消滅の直接の引き金を自ら引くことはない。

アメリカの先制攻撃もない

それではアメリカの北朝鮮への先制攻撃はあるのか。これもないと私は思っている。

 第一にもしアメリカが、現態勢のまま先制攻撃をすれば、北朝鮮の反撃を受け、ソウル近傍では何千人、あるいは何万人という死者が出ることが予測されるからである。強大なアメリカ軍といえども第一撃で北朝鮮軍を壊滅させることは無理である。第一撃で生き残った北朝鮮軍が必ずやぶれかぶれの反撃に出る。だからアメリカは先制攻撃を仕掛ける前に38度線近辺の非戦闘員であるアメリカ人や韓国人を避難させる必要がある。突然先制攻撃を発起し北朝鮮の反撃で多くの人命が失われるような戦争は民主主義国家アメリカにはできないであろう。非戦闘員の退避が先に実行されない限り、アメリカの先制攻撃はないと思う。

 トランプ大統領当時シリアの攻撃に踏み切ったアメリカのイメージを持つ人であれば、北朝鮮も攻撃するかもしれないと思うであろう。しかしシリアと北朝鮮の状況は全く違っているのだ。シリアを攻撃してもアメリカは反撃を受けることがない。アメリカは安心してシリア攻撃を実行できるのだ。

アメリカのシリア攻撃は公共事業

 第二にはシリア攻撃はアメリカの公共事業的性格があるのだ。数年前にイスラエルに行ったときにイスラエル軍の関係者が言っていたことが思い出される。アラブの内戦やアラブとイスラエルの戦争が終わらないのには理由があるという。アラブとイスラエルの戦争について言えば、アラブ側がイスラエルに対し突然ミサイルやロケット攻撃を行うが、イスラエルは国産のミサイル迎撃兵器アイアンドームでこれを完璧に撃退できる。驚いたことに、このアラブ側の攻撃はイスラエルに対する攻撃要請のシグナルだというのだ。攻撃を受けるとイスラエルは反撃の準備をして、アラブ側に何月何日何時何分から攻撃をするとあらかじめ伝えるのだそうだ。そして第一撃では被害が発生しないようにゴム弾により攻撃を行うという。その後本格的な攻撃が開始される。アラブ側が学校や病院にミサイルやロケットを置いて攻撃してくるので当然それらも攻撃対象となる。そして被害が出るとその映像が世界に発信され、アラブの人たちがかわいそうだということで世界中から支援金が集まる。これをコントロールする有力部族などが利益を受けるのだそうだ。さらに被害復旧には欧米の会社も参加するのでアメリカの建設会社などにも当然利益が出るということだ。アメリカのアサド政権側攻撃、ロシアの反体制側攻撃にもそのような背景がある。

金儲けにならない北朝鮮攻撃

翻って北朝鮮をアメリカが攻撃してもアメリカの建設会社が儲かることはな

い。北朝鮮の復旧は、北朝鮮の労働者を使う中国やロシアの建設会社が請け負うことになるからである。アメリカが中露の儲けのために危険覚悟で北朝鮮の先制攻撃に踏み切る可能性は低いと思う。

だからシリア攻撃は時々起きても、北朝鮮攻撃は起きないのだ。

第三にはアメリカ軍の空母の動きなどがマスコミなどで報道されていることがある。軍事作戦が実行に移されるときには敵軍の状況、味方の戦力配置などは徹底的に秘匿される。だからシリア攻撃は突然始まった。陸地を遠く離れた海軍の動きなどはアメリカ軍がマスコミなどに情報提供しなければ民間の衛星などだけでは十分にはわからない。ところがアメリカの空母や艦艇などががフィリピン近海にいるとか朝鮮半島東側にいるとか報道されるということは軍が意図的に情報リークをしているということなのだ。実際には戦わずに敵を威圧したり、他の目標を達成したりする場合にはそのようなことが行われる。アメリカは軍を集結して北朝鮮攻撃をすぐにでも行うような行動を見せながら、実際には攻撃する気は現在の段階ではないと思う

 第四には、これが根本的理由かもしれないが、アメリカは中東や極東など不安定な地域の安定は望んでいないということがある。極東では北朝鮮のような問題児が存在して時々騒いでくれることがアメリカの国益である。北朝鮮を攻撃して潰してしまってはアメリカは何の利益も得られない、損をするだけだ。

 北朝鮮があるからアメリカはこの地域に関与できる。日本や韓国に対しアメリカとの同盟が必要だろうと説得できる。有利な条件で同盟関係を結ぶことが出来る。また北朝鮮のミサイルを迎撃する態勢の整備を急ぐ必要があるということで、アメリカのミサイル防衛システムであるサードやイージスアショアを売りつけることもできる。その他の外交交渉でも日本や韓国に対し譲歩することを要求できるのだ。アメリカは本心ではアメリカにとって北朝鮮が脅威だとは思っていないと思う。北朝鮮が数十発のミサイルをアメリカに撃ち込んだとしてもアメリカは完ぺきにこれを撃墜して無力化するであろう。しかし北朝鮮が危ないと騒ぐことがアメリカの利益になるのだ。別にアメリカが悪いと言っているわけではない。

 国家というものは自国の利益だけを考えて行動するものだ。

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  • 北朝鮮のミサイル騒ぎは中国の脅威隠し
  • 軍事力の増強と情報戦態勢の強化 強い国へ

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