反撃能力が無くては国益を損なう 後編 | 田母神俊雄

個人でも専守防衛は悪手であるー現役時代の訪中における歴史論争ー
田母神セブン 2023.02.01
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田母神セブン通信は、元航空幕僚長の田母神俊雄が、軍事・国際情勢・日本の行方などについて解析するためのチームを新たに結成し、田母神俊雄とそのブレーンによる広く深い、ニュース・分析をお伝えしてまいります。

 前編では国家としての先制攻撃能力の必要性といかに「専守防衛は戦いに必ず負ける」というを解説をしたが、個人においても「専守防衛」の心得でいると如何に相手に利するのか、私が現役時代に訪中した際のエピソードを披露したいと思う。

1.人民解放軍総参謀長助理との歴史論争

2.その後の中国の対応

3.「相手はそのうちわかってくれるだろう」は禁物

日本の三大右翼の一人

 自衛隊退官後、誰かのパーティの席で中国人記者から、「田母神さんは、中国では日本の3大右翼の一人になっている」と言われたことがある。それではそれは誰かと聞いたら「石原慎太郎、西村真悟、田母神俊雄」だと答えが返ってきた。しかし何故私が3大右翼の一人と言われることになったのかと考えてみたら、私が自衛官現役時代に中国に行って歴史論争をやったからではないかと思う。日本の政治家や各省庁の高官が中国を訪問すると、面談の席で中国側の代表はいつも同じ歴史認識の話を持ち出すという。しかし訪問した政治家や高官は中国の話を承るだけで何の反論もしないのだという。私が中国を訪問した時3年間中国に駐在してほとんどの訪問者の中国側との面談に立会したという武官が話してくれた。中国の歴史認識に注文を付けたのは田母神が初めてであると。 

範長龍陸軍中将との面談

 私は平成16年(2004年)6月統合幕僚学校長の時に学生たちを連れて中国の国防大学を訪問した。これは以前から自衛隊統幕学校と中国国防大学の交換訪問プログラムとして毎年実施されていた。統幕学校が中国を訪問すると学校関係者以外に中国軍の高官と統幕学校訪問団の面談のプログラムが計画されるのが恒例になっていた。私が訪問した時は中国軍総参謀長助理の範長龍(ハン・チャンロン)陸軍中将との30分の面談があった。彼は昭和22年生まれで私より一つ年上だった。のちに中国人民解放軍のトップになった人物だ。 

 面談は中国の防衛省がある八一大桜で行われた。八一大桜は日本の防衛省を上回る立派な建物だ。その会議室で中国式コの字の並び方で、私と範中将が横に並んで座り、私たちを挟むように日本側訪問団と中国側スタッフが向き合って座る。そして面談に参加する私たち全体を銃携行の中国の兵隊たちが取り囲んでいるという形だ。我々を威圧しながらの面談のようだった。 

範長龍陸軍中将と歴史論争

 範中将はニコニコ顔で歓迎の一言を述べて、その後私たちも中国側も着席した。座ったとたんに彼の口から出た言葉は「過去の不愉快な歴史をどう認識するか」というものだった。それに続き日本軍が中国に悪さを働いたという話を始めた。彼は旧満州の生まれだという。 

 子供の頃から日本軍がどれほど残虐であったか、親や親戚から散々聞かされてきた。「私の体に染み付いていて忘れることができない」という。私はお客さんである我々によく言うよという思いで聞いていた。そして日本の悪口をさんざん聞かされて、私はだんだん腹が立ってきた。30分間文句を言われただけで終わるのはたまったものではない。10分たったところで私は手を上げて範中将を制止し、私にも話をさせてほしいと言った。それから反論した。 

 当時の満州の人口のことだ。1932年満州建国時は3000万人だった。人口動態を中将はご存知かと。13年後の1945年、人口は5000万人を超えた。満州は毎年100万人以上も人口が増え続けた。残虐行為が行われるような地域に人は集まらない。満州は人口が毎年100万人も増えるほど豊かで治安が良かったということではないか、これが歴史的な証拠だ。だから私はあなたの言う歴史認識には全く同意できないと伝えた。 

中国軍のレセプション出席直前キャンセル

 範長龍(ハン・チャンロン)陸軍中将は、びっくりしたような顔をしていた。日本人は反論しないと思っていたようだ。少し沈黙の後、さすがは中国と言った所か、発した言葉には目を丸くした。「歴史認識の違いを超えて軍の交流は進めよう」と範長龍中将は言った。 

 しかし中国側はきっちりといじわるをする。北京訪問時、私は空将 (空軍中将)だった。軍の国際交流では相手国も階級を揃えて迎えるという暗黙のルールがある。こちらが20数名で訪問したので中国も陸軍中将以下相応の人数を用意して到着時のレセプションをやってくれた。そして軍の交流の恒例で帰る前の夜、答礼のレセプションを私が準備した。北京ナンバーワンのホテル北京飯店でこちらがもてなす会食を設けた。しかし答礼レセプションには

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  • 相互交流一時中止
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