「先任はどっち?」|第4回 防衛システム研究所

皆さんは聴き慣れない言葉「先任」ってご存じでしょうか?
田母神セブン 2023.03.01
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「田母神セブン」メンバーの一員、「防衛システム研究所」は元陸上自衛隊中部方面総監の松島悠佐が代表を務める会社です。陸・海・空の退職自衛官を中心とした構成員で防衛、軍事等についての知見を活かした活動を行っています。

近年はYouTubeチャンネル「ベテランズLINK」の制作発信にも協力しています。

「先任とは?」自衛隊独特の用語などについて解説します。

 皆さんが友達と2人でいるとき、「先任はどっち?」と質問をされたら「先任?」と戸惑うのではないでしょうか。

 ところが自衛官が2人でいるとき「先任はどっち?」と聞けば、直ちにどちらかを指さすか、どちらかが手を上げます。軍事組織である自衛隊では、常に誰が指揮する者で、誰が従う者かを明確にしています。多数の場合は「最先任はだれか」ということになります。これを認識するため、自衛官がいろいろなところから集まっている場合、誰が先任かを、お互い確かめ合うことになります。

 そのような習慣で長年勤務してきますので、退職自衛官の集まりでは席順やテーブル順が自然と決まってきます。また、知らない者同士の場合「こいつは俺より後輩そうだな」「あの人と対等に話しているから俺より先任か」とかの探り合いから始まる傾向があります。

この先任順は勤務時はもちろん、遊びに出ても、飲み屋に行って一杯飲んでいる時も守られます。彼女(彼氏)へのアプローチ順でも影響します。

 防衛システム研究所は防衛関連装備品、関連システムについてだけ考察しているわけではありません。組織、仕組み、慣習、人間関係等も一種のシステムです。

 田母神セブンでは、一般社会と違う自衛隊の一面、陸・海・空各自衛隊での違いなどについても解説していきたいと思っています。

先任はどのようにして決まるのか?

「先任」かどうか、つまり各人の順位はどうなっているでしょう。誰が見てもわかる明確なものとして、階級があります。将、将補、1佐、2佐、3佐、1尉、2尉、3尉、准尉、曹長、1曹、2曹、3曹、士長、1士、2士が自衛官のすべての階級です。いうまでもなく将が一番上位であり、順次下位となります。陸・海・空各自衛隊の所属により、陸将、2海佐、3空尉、などと呼称しますが、正式には数字に1等、2等、3等とつきます。つまり1等陸佐、1等海士等です。

 自衛官の制服には階級章が付きますので、一目でわかるわけです。3尉以上が幹部です。准尉から3曹までは自衛隊では区分する呼称がありませんが下士官と位置づけられ、専門技能で幹部を補佐し士長以下の隊員を指導します。士長以下を含めて曹士隊員と総称します。制服自衛官の約8割が曹士隊員です。自衛官約22万5千人のトップオブトップは統合幕僚長ですが、これは役職で、階級は「将」です。

 幹部自衛官は幹部名簿で明確に順番が付いていますが、いちいち見るわけにはいきませんし、誰でも見れるわけではありません。曹士隊員はそれぞれのグループ毎で管理されます。

 幹部、曹士共、同じ階級の場合、出身、昇任年次、期別などから、自分の立ち位置を確認します。

 少なくとも日常接する者同士は、どちらが先任か確認しています。自衛隊用語で「掌握」しています。

 統合幕僚長、陸・海・空各幕僚長から現場の2士まで、順番が付いていますが、それは大きな組織である自衛隊が戦争状態においても円滑に機能するためのものであり、一人ひとりの任務上の重要さに軽重はありません。

 帝国陸軍には「兵隊元帥」という言葉がありました。将校である少尉に任官してから最上位の元帥(階級ではありませんが)までのステップと、2等兵からのステップ数が同じであるため、兵卒から少佐まで昇進したた者をそのように言ったそうです。兵隊からのたたき上げの親分といったところでしょうか。

 これとは少し違いますが、現在の自衛隊にも階級ではなく特別の役職があります。陸上自衛隊の「最先任上級曹長」、海上自衛隊の「先任伍長」、航空自衛隊の「先任上級曹長」という名称のポジションです。各自衛隊全体の最先任者は市ヶ谷にある各幕僚監部に個室があり、自衛官の約8割を占める各自衛隊全曹士隊員の総代表役となります。

 自衛隊に入隊すると、幹部要員採用、曹士隊員採用など採用対象別にそれぞれのトップを目指します。幹部自衛官の場合、防衛大学校出身者、一般大学出身者など、出身により別管理となりますが、各自衛隊のトップである「幕僚長」を目指すものは、マラソンと同じで常に「一選抜」という、トップグループにいる必要があります。下位グループからの逆転はまずありません。

退職した自衛官の場合

 現職自衛官は上に述べたように、階級や役職により先任順が決まります。では、退職自衛官はどうでしょうか。自衛官同士が集まる会合などでは、先任とは言いませんが。何となく順位があります。特に在職時の階級で「将官」は少し別格です。今の時代、そういうことは適切で

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  • 「敬礼」についてのあれこれ

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