次期戦闘機選定のリアル|榊原吉典の視点 第二回

なぜ世界の国々は戦闘機を自前で作るのか?を読んでの所感
田母神セブン 2023.01.24
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1.技術流出はこうして起こる

2.E-2C早期警戒機とはどのような機体か

3.ダグラス・グラマン事件

4.同盟国だからこそ対等な交渉を

5.ドグマ(dogma)とドクトリン(doctrine)

「なぜ世界の国々は戦闘機を自前で作るのか?」において、タモさん先輩が「F2戦闘機はその時すでに少し古くなりかけていた米空軍のF16をベースとした共同開発になった。」と述べられています。これを読んで思い出したことを述べさせていただきたいと思います。

出典:航空自衛隊ホームページ(https://www.mod.go.jp/asdf/index.html)

出典:航空自衛隊ホームページ(https://www.mod.go.jp/asdf/index.html)

F-16ベースで共同開発となり唇を噛んだこと

 日本の政治が負けて、国産から共同開発になったとしても、ベースとなる機体がF-18ならまだ良かったのですが、F-16になってしまったことは、官民ともに唇を噛みしめただけでなく、結果として日本の技術がアメリカに流出する結果を招きました。  F-16は単発エンジンです。F-104は単発ですが、その後のF-4からは双発エンジンの機体を採用しています。この理由は、双発エンジンにより強力なパワーを得られるということもありますが、もう一つはリスクヘッジです。航空機は空を飛びます。空中で故障した場合、車が地上で故障するよりはるかに大きな危険と事故の可能性があります。このため、機体の様々な系統において、バックアップのシステムを採用しているのです。特に、エンジンは飛行するためのパワーを供給するだけでなく、エルロン、ラダー、脚などを動かすための油圧源にもなっている重要な機器です。よって、1本のエンジンでなく、2本のエンジンを装備した機体を採用していたのですが、双発エンジンのF-18より古いF-16となってしまいました。

 また、F-2の主翼には、当時の我が国が誇る「複合材の一体成型」技術が採用されています。この「複合材の一体成型」は、我が国のみができる技術で、アメリカにもできない技術でした。この技術もF-2が共同開発となったことで、アメリカに流出してしまいました。「複合材の一体成型」を開発した技術者たちは、無念の涙を流したと聞いたことがあります。

 日本の政治が負けて、次期戦闘機選定の担当者や新技術の開発者の努力と苦労が水の泡になってしまったのです。

E-2C導入は誰のため?

アメリカとの関係で悔しい思いをしたもう1機種について触れたいと思います。

 E-2Cという機体をご存知でしょうか。機体上部に円盤型レドームを搭載した機体です。円盤型レドームを搭載している機種として、E-2CとE-767という2機種を航空自衛隊(空自)は装備しています。これらの機種は、早期警戒(管制)機と言われ、地上の固定レーダーサイトの覆域を補完することができ、また航空母艦から発艦して前方展開することによって、敵を探知する距離や地域を拡大することができる能力を有しています。また、この能力により、一定の空域を監視して、敵の航空機等の空中目標を探知・追跡するとともに、味方の航空機に情報を提供して適切な指示を与えることが可能となります。

出典:航空自衛隊ホームページ(https://www.mod.go.jp/asdf/index.html)

出典:航空自衛隊ホームページ(https://www.mod.go.jp/asdf/index.html)

 早期警戒(管制)機は、当時の空自には無い機能を補完することができるため、導入することに意義はありますが、その機種はE-2Cが妥当だったのでしょうか。E-2Cを調達することが日本で決定したのは1979年ですが、E-2Cより能力の優れたE-3(E-767の当時のバージョン)は、アメリカ空軍では既に1977年から就役しています。E-2Cは、元々、航空母艦から発艦して運用する早期警戒機なので、空軍である空自にとっては不要な機能を有しているだけでなく、空軍機であるE-3と比べると能力的には見劣りしてしまいます。それにもかかわらず、既にアメリカ空軍に就役しているE-3を導入せずして、E-2C導入することには合点がいきません。当時、経営不振に喘いでいたE-2C製造会社であるグラマン社は、日本がE-2Cの調達を開始した以降、経営再建できたようです。また、グラマン社がE-2Cの日本への売り込みのため、代理店会社を経由して、日本の政府高官らに不正資金を渡していた、ダグラス・グラマン事件が発生しております。軍事的合理性をもってE-2C導入が決定したのでしょうか。

 以上は私見です。空自がE-2Cを調達する当時は、E-3はアメリカ空軍への配備が優先されていた時期であり、E-3にこだわると調達ができるのが何年先になるか分からなかったためE-2Cと決定したという説もありますが、真実は不明です。

田母神航空幕僚監部装備部長の叱咤

 タモさん先輩が航空幕僚監部(空幕)装備部長のとき、その装備部で私は勤務していました。当時の予算要求資料を作成する際の思い出を紹介いたします。

 皆さんも何かを購入するとか、発注する際、数社から見積書を手に入れて、見積りの内訳の正当性を確認して、それらの見積りを比べると思います。このことは官民共通しているでしょうし、特に、国民の税金を執行する公務員は、見積りの妥当性を厳しく査定します。空幕に勤

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