自衛隊ピラミッドの頂点 |第3回 防衛システム研究所

自衛隊のトップ95パーセントを占める防衛大学校の卒業生。 防衛大学校とは?
田母神セブン 2023.02.13
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「田母神セブン」のメンバー「防衛システム研究所」は元陸上自衛隊中部方面総監の松島悠佐が代表を務める組織です。陸・海・空の退職自衛官を中心とした構成員で防衛、軍事等についての知見を活かした活動を行っています。

近年はYouTubeチャンネル「ベテランズLINK」の制作発信にも協力しています。

1.陸海空幕僚長の構成

2.防衛大学校とは

3.防衛大学校卒業生の特徴

4.防衛大学校卒業生に望む事

自衛隊ピラミッドのトップ95パーは防衛大学校1校の卒業者

 我が国の有事に際して、外敵から国を守るのは自衛隊です。唯一無二の実力集団です。20万人以上の陸海空自衛隊員が全国各地で国防の任についています。この集団の枢要なポジションを9割以上占めているのが防衛大学校を卒業した制服自衛官です。このような卒業生を輩出している防衛大学校について、皆さんは知っているでしょうか。防衛大学校の概要と押さえておくべきと考えられる卒業生たる自衛官の特徴について解説したいと思います。

出典:陸上自衛隊HP 注:写真はイメージです。防衛大学校のものではありません。

出典:陸上自衛隊HP 注:写真はイメージです。防衛大学校のものではありません。

 制服自衛官のトップは統合幕僚長です。統合幕僚長は、陸・海・空各幕僚長から昇任しますので、陸・海・空の幕僚長が各自衛隊のトップということになります。

 各自衛隊の歴史で防衛大学校卒業生が、はじめて幕僚長に就任したのは平成元年8月31日付、第1期卒業生の佐久間一海将です。それまでは、帝国陸・海軍出身者や、一般大学出身者が就任していました。

 第1期生が就任し始めて以降、海上自衛隊と、航空自衛隊の幕僚長はすべて防衛大学校卒業者です。陸上自衛隊は令和5年1月現在の幕僚長 吉田圭秀陸将が一般大学の卒業ですが、それまではすべて防衛大学校卒業者でした。佐久間海将の海上幕僚長就任以降53人の幕僚長が就任していますが、うち52人が防衛大学校卒業者ということです。トップになる前の補職として、陸の方面総監、海の地方総監等、航空の航空方面隊司令官などがありますが、現在までに就任した将官のうち約95%が防衛大学校卒業者です。つまり約20人に一人程度だけ一般大学などの出身者が席を占めたことがあるということです。

 田母神セブンのメインライター田母神俊雄元航空幕僚長、防衛システム研究所代表 松島悠佐元中方総監ともに、もちろん防衛大学校卒業生です。最近、軍事専門家として元自衛官が登場する機会が多いですが、防衛大学校卒業生が大半です。(ウクライナ情勢にコメントする防衛研究所の現職職員は自衛官ではありません。現職自衛官はテレビ等のマスコミでコメントすることは現状では、まずありません。)

 田母神俊雄氏、松島悠佐氏の出身校、防衛大学校はどのようなところなのか、どのような教育が行われているのか、意外な卒業生の特徴どについても解説をしたいと思います。

防衛大学校・学生・卒業生 

 防衛大学校は昭和27年(1952)に保安大学校として設立され、昭和29年に防衛大学校になりました。第2次世界大戦時、帝国陸海軍の間が良好といえなかった反省の上に、陸・海・空の幹部要員を一堂に集めて教育を行っています。(ちなみに米国は陸軍、海軍、空軍それぞれに士官学校があります。)

 文部科学省の所管する「大学」と異なり省庁の所管する各種学校に当たります。他に国土交通省の海上保安大学校、農水省の水産大学校などが知られています。

 神奈川県横須賀市走水にあり、皆さんが空の旅で羽田空港を離発着する時、飛行機から注意していると(天候や飛行コースにもよりますが)上空から全景を見ることができます。三浦半島の観音崎灯台近くの小高い丘(小原台)にある、緑に包まれた白い建物群がそれです。ここに約2,000人の学生が生活しています。当初は理工系の男子のみでしたが、近年は文系および女子学生も採用されています。

 学生の身分は特別職国家公務員、自衛隊員です。全寮制で被服、個人装備等は貸与、食事は支給です。そのうえ、学生手当が支給されます。教育内容は普通の大学の授業に防衛学などの座学があり、また通常、大学にはない各種訓練が加わります。毎日とにかく忙しく、起床から消灯まで分刻みの行動が要求されます。

出典:陸上自衛隊HP 注:写真はイメージです。防衛大学校のものではありません。

出典:陸上自衛隊HP 注:写真はイメージです。防衛大学校のものではありません。

 学生は学生隊を編成しています。4個大隊制で1学年から4学年までが起居を共にしています。文字通り「同じ釜の飯を食う」わけです。軍事組織ですので学生といえども、すべてに順番がついています。学生隊学生長を頂点とするピラミッドを構成しています。全校行事から日々の生活まで、徹底した指導関係が伝統として引き継がれており、高校を卒業したばかりの若者たちが戸惑いながらも、軍隊的環境に適応させられていきます。上級生の指導は絶対的ですが、愛の鞭だけとは限らず、中には不条理なものもあり、どうしても適応できない者は退校していきます。

 入校後4年間で、自衛隊幹部候補生としての知力・体力とともに、団結心等を涵養して卒業に臨みます。18歳程度の若者が、いわゆる「シャバ」から分離された空間で、4年間を過ごし、極めて強い人間関係、きずなで結ばれて、陸・海・空幹部要員として各自衛隊の幹部候補生学校へ巣立っていきます。卒業後、各自衛隊入隊から定年退職までの長い人生を歩むわけですが、防衛大学校同窓生、なかんずく同期生は、極めて固いきずなで結ばれ、生涯、仲間意識を持ち続けます。

防衛大学校卒業生自身が気づかない特徴とは

 外敵に対する我が国の唯一無二の実力集団「自衛隊」、その組織の上層部を圧倒的割合で占める防衛大学校卒業生。客観的に、言い換えれば「国民目線」で見た場合に、押さえておかなければならない特徴が2点ほどあります。卒業生自身はあまり意識していません。

1 純粋培養されていること

 戦場という異常な環境では、部下に対して、死ぬかもしれない命令を下すことが必要な場合があります。

 これをなすためには純粋な任務意識が必要です。そのための教育が、防衛大学校の教育の根本にあると思います。場合によっては理不尽であろうと絶対服従の校風も理解できる気がします。

 青春の4年間を防衛大学校という、浮世離れした空間で過ごし、その後も就職先として各自衛隊で勤務し、それぞれの部署でほとんど一般の国民と接触せずに定年を迎える防衛大学校卒業の自衛官は数多くいます。まさに純粋培養です。

 国内や外国の一般大学に留学する者、一般企業に研修に出る者など、外部との交流プログラムも存在しますが、割合からすればごく少数です。

 一般の大学卒業者は職業選択の自由がありますが、防衛大学校卒業者は各自衛隊に勤務することが前提となります。

 一般社会では、経営を目指す人であれば、能力発揮すれば、社会的注目を浴びて一躍成功者になることも可能です。また、世の中のいろいろな方々と若くして巡り合う機会もたくさんあります。

 しかし、現状では自衛官の一般社会との交流はかなり限られたものになります。したがって、自衛官の評価は自衛隊部内での評価によるものとなります。

 防衛大学校卒業者は自衛隊のトップ「幕僚長」を目指します。だだし、陸・海・空自衛隊に巣立った卒業生の同期生ではそれぞれ1名なれるかどうかです。では、何をもって昇任していくかですが、まず防衛大学校の卒業時成績がものを言います。先に述べましたが、軍隊組織であるためすべての学生に順番が付きます。2人以上いるときどちらが先任であるかを明確にするためです。つぎに卒業後は各自衛隊の幹部候補生学校での成績が重視されます。幹部となる要員が同じ評価基準で評価できるためです。

 その後は職種ごとに評価されますが、初級幹部教育、幹部学校指揮幕僚過程(旧軍の陸軍大学、海軍大学に相当)等を経て昇進していくわけです。それぞれ各自衛隊の幹部学校、各種学校などに集められ、ある期間教育を受け、その都度成績と順番が付きます。

 階級の昇任には一定の最低期間が設けられていることと人数に制限があるため、一番最初に昇任するものを「一選抜」といいます。同期で一選抜を続けて昇任と転任を繰り返し、徐々に要職を歴任し最終的に1名が幕僚長の栄冠?を得ることになるわけです。

 この間外部の評価を受けることはほとんどありません。他省庁のキャリア官僚も内部の評価が主体ですが、国会対応、他省庁・関連団体等とのやり取りなどを通じて、ある程度の外部の評価を受けます。自衛官の場合、事故を起こすとか、何らかの不祥事に関連するなどマイナス

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