プリゴジンの乱に観るプーチンの指揮・統御 | 榊原吉典の視点 第6回
「田母神セブン」メンバーで田母神俊雄の元部下、榊原吉典によるコーナー「榊原吉典の視点」第六回としてロシアウクライナ戦争におけるいわゆるブリゴジンの乱におけるプーチン、ブリゴジンの指揮・行動について「統御」の観点からの考察をお届けいたします。
ロシアによるウクライナ侵攻から1年以上経過し、ウクライナが反転攻勢を始めたところに、プーチンの子飼いの部下であるプリゴジンが反乱を起こしました。この反乱は1日で終息したものの、世界中を騒がせただけでなく、プーチン政権に対して様々な憶測を生起させています。
プリゴジンの乱は、プーチンが部下たちを統御できていれば起きなかったでしょう。裸の王様になったプーチンが現実を正しく掌握しないまま、面倒なことを部下に押し付け、自らは手を下さないという無責任さが起こしたとも言えます。
それでは最近の報道から、プーチンの指揮・統御について考えてみたいと思います。
アルマゲドン将軍の交替
「アルマゲドン将軍」との異名もあるセルゲイ・スロヴィキンがウクライナ侵攻の総司令官に任命されたときは、彼の残虐な戦い方がウクライナ軍を苦しめるとも言われておりました。しかし、その後、目立った戦果を上げることもなく副司令官に更迭されていました。一般的には、指揮官を頻繁に交替することは避けるべきと考えられています。部隊は指揮官を核心として団結するものですが、核心が替わってばかりでは、団結も強固にはならず、兵士の士気も上がらなくなるからです。部隊が精強にならないだけではありません。更迭された指揮官や武将が将来に禍根を残すこともあります。更迭を納得していないスロヴィキンにとっては、上官であるプーチンに対しての不満や不信感が芽生えたことでしょう。
プーチンはスロヴィキンの登用時だけでなく、特に更迭時においては、しっかりと本人とコミュニケーションを取って納得させる必要がありました。ただ、部下に対する愛情に欠けるプーチンは、そんな面倒なことはしません。面倒なことは、他人に丸投げするのがプーチンの常です。結果として、このスロヴィキンの不満の芽は、プリゴジンのロシア軍に対する憤りと繋り助長する作用を起こし、プリゴジンの反乱を後押しすることになったとも考えられます。
部下とのコミュニケーション
タモさん先輩は「上司の仕事は部下の仕事の責任を取ること」と言われ「成功は部下のおかげ、失敗は上司たる自らの責任」が信条です。しかし、プーチンは全く逆で、失敗の責任は部下に押し付けます。ロシア軍の撤退など都合の悪いことが起きたときは、プーチン自身は身を引き、直属の部下らに責任を負わせ処理させます。こうして、兵士や国民の怒りから自らを守り、部下の誰かを悪者に仕立てるのです。部下たちも悪者にはなりなくないので、内輪もめが起きます。こんなことでは、チームとしての団結できる筈は無く、国益追及が目的とならず、自らがババを引かないことが目的となってしまいます。プーチンのこんな態度や、ワグネルを特別扱いすることが、ロシア国防省とワグネルを対立させ、プリゴジンを思いあがらせていました。
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逆境下でのリーダーの態度
危機や逆境下でこそ、特にリーダーの真価が問われます。こんなときこそ、自らが全ての責任を取るという堂々たる態度で、動ずることなく、いつも以上に穏やかな顔で「今日もどこかで戦がごわすか」と日露戦争時の大山巌満州軍総司令官のように、とぼけて部下たちを安心させ、和ませることが必要です。落ち着いた部下たちは本来の力を発揮するとともに、上司との上下のコミュニケーションも部下同士の左右の連携も確保できます。このように、部下たちの力を結集させることができるのが、本当のリーダーです。
長く大統領を務め、部下から恐れられ、裸の王様になった、プーチンには、部下に対する愛情も無ければ、部下からの信頼もありません。このような上司と部下の心的関係では、プーチンによる統御は成り立たず、ロシア軍首脳部は良い戦果を上げられる道理はありません。それどころか、プーチンが失敗の責任を部下に負わすというやり方が、結果として部下同士の対立を生み出します。戦果を上げるどころでなく、部下同士の対立から、足を引っ張り合うこととなります。このような状況の中で、プリゴジンは反乱を起こしたと観察できます。
プーチンが部下たちをしっかり統御できていれば、プリゴジンは反乱を起こさなかったでしょう。反乱前だけでなく、反乱生起から収束までのプーチンの行動からも、彼が